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近隣諸国に対する投資規制の強化

外国からの投資は、インドの経済成長における重要な要素のひとつとして、これまで大きな役割を果たしてきました。グローバルな資本市場への参入の機会や、世界水準の技術、人材育成、さらにはインド企業にとっての新たな収益源として、多くのメリットをもたらしています。

一方で、インド政府は、こうした投資が近隣諸国によるインド企業の支配権の“投げ売り”に繋がることがないよう、厳格な管理と監視体制を敷いています。

本記事では、近隣諸国による敵対的買収などからインド企業の利益を守るために、インド企業省(Ministry of Corporate Affairs)が導入した各種の保護措置について詳しく解説します。

インド政府は、近隣諸国からの外国投資に対して慎重かつ保護主義的な姿勢を鮮明にしています。これは、外国投資の恩恵を一概に受け入れるのではなく、その裏に潜むリスクにも目を向けている姿勢の表れです。

実際に、外国からの投資の中には、受け入れ国の脆弱性を突くような意図が隠されているケースもあり、その結果、国内企業の“投げ売り”や、経営権・管理権の国外流出、さらには過剰なレバレッジの発生といった問題を招く可能性があります。

こうした敵対的な投資に対応するため、インド政府は「ビロードの手袋の中に鉄の拳を忍ばせた」ような、柔らかさの中にも強さを感じさせる対応を取っており、これは近年の一連の企業関連法改正にもはっきりと表れています。

包摂的な産業政策への取り組みを損なうことなく、政府は近隣諸国からの投資に対しては対決的とも言えるスタンスをとっています。

特に最近では、企業省(Ministry of Corporate Affairs)によって、インドと陸上国境を接する国々の国籍を持つ外国人取締役に対して、新たに追加のセキュリティクリアランス(安全審査)の取得が義務付けられるといった厳格な対応が取られています。

インド企業省(Ministry of Corporate Affairs/MCA)は、2022年6月1日付の通知により、「会社(取締役の任命および資格)規則、2014」を改正する形で、「会社(取締役の任命および資格)改正規則、2022(以下「2022年改正規則」)」 を導入しました。

この改正により、インド企業の取締役に就任しようとする個人が、インドと陸上国境を接する国の国籍を有する場合、インド内務省(Ministry of Home Affairs/MHA)からのセキュリティクリアランス(安全審査)を取得することが義務付けられました。

インドと陸上国境を共有する国は、中国、ネパール、ブータン、パキスタン、バングラデシュ、ミャンマー の6か国です。

本改正の主なポイントは以下のとおりです:


■ DIR-2フォーム(取締役就任の同意書)

「取締役の任命および資格に関する規則」の第8条では、すべての取締役就任者は、就任の前または同時に、DIR-2フォームにより書面で同意書を会社に提出することが義務付けられています

また、会社は取締役の就任後30日以内に、登録局(Registrar)へDIR-12フォームを提出し、定められた手数料を支払うことが求められています(「会社登録事務所および手数料に関する規則、2014」準拠)。

今回の改正により、第8条の但し書きに次の内容が追加されました:

「さらに、就任を希望する者がインドと陸上国境を接する国の国籍を有する場合には、内務省(Ministry of Home Affairs/MHA)による必要なセキュリティクリアランスを同意書とともに添付すること。」

さらにDIR-2フォーム内でも、当該取締役候補者がセキュリティクリアランス取得の必要があるか否かを申告する欄が新たに追加されています。


■ 取締役識別番号(DIN)の付与について

インド企業の取締役に就任しようとする個人は、まず取締役識別番号(DIN)を取得する必要があります

本改正により、「規則10」の但し書きの後に、次の内容が追加されました:

「取締役識別番号を申請する者がインドと陸上国境を接する国の国籍を有する場合には、内務省による必要なセキュリティクリアランスが申請書に添付されていない限り、申請番号(Application Number)は発行されない。」

また、DIR-3フォームの「本人確認」欄にも、セキュリティクリアランスの取得義務の有無を明記する項目が追加されています。


■ 明らかになったポイント

上記の通り、インドと陸上国境を接する国の国籍を有する者が、インド企業の取締役に就任するためには、事前に内務省の承認を得ることが必要となります。

この改正は、2020年4月17日付の「プレスノート3(2020シリーズ)」(商工省・産業国内貿易振興局/DPIITによる発行)と整合する内容です。同プレスノートでは、インドとの国境を接する国の実質的所有者または企業がインドに投資する場合、事前にインド政府の承認が必要であるとされました。

今回の会社法規則の改正は、こうした動きの一環として、近隣諸国の国民によるインド企業での取締役就任を規制することで、外国直接投資(FDI)だけでなく企業経営への影響もコントロールする狙いがあると考えられます。

結論

今回の改正により、隣国出身の外国人でインド企業の取締役に就任している、あるいは就任を検討している方々には追加のコンプライアンス負担が生じる可能性があります。しかしながら、これらの改正は国益を守る観点から、隣国からの機会主義的な買収を防ぐためにインド政府によって導入されたものです。外国人取締役や外国投資があるインド企業は、自社の現状を慎重に見直し、最新の法令および規制の改正に確実に適合しているかを確認することが不可欠です。また、インド国内における総合的なコンプライアンス体制についても、法の枠内で適正に運営されているかどうか、改めて点検することが重要です。

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