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マスターカード判決 — 実質的アプローチ

この急速に進むグローバル化の時代において、多国籍企業の税務問題は政治的議題の上位に位置づけられています。グローバル化は、企業の国境を超えた展開や従業員の移動、技術や知的財産、ノウハウなどの国際的な移転をもたらします。こうした要素の越境移動が増えるにつれ、受入国側での税務上の影響も避けられず、特に論争が絶えないのが「恒久的施設(Permanent Establishment:PE)」の問題です。恒久的施設の認定にあたっては、移転価格(Transfer Pricing)と機能分析(Functional Analysis)が重要な役割を果たします。

シンガポールのMasterCard Asia Pacific Pte. Ltd.(申請者)に関する先行的判断機関(Authority for Advance Ruling:AAR)によるAAR No. 1573/2014の判決は、インドにおける恒久的施設問題に関する訴訟の増加に拍車をかけました。この判決が特に注目されるのは、再編後のシナリオにおける機能分析の概念とその重要性にAARが踏み込んだ点にあります。

本判決において、AARは再編後の事業構造における分散化された機能構造を踏まえ、機能的かつ実質的なアプローチを採用しました。AARは申請者に対してインドにおける固定施設PE、サービスPE、依存代理人PEが認められると判断していますが、本稿では特に、インド子会社が担う機能に基づいてPEが認定された点に焦点を当てます。

この判決の特徴は、事業再編後も同じ機能がインドで遂行されていたものの、実態としては機能分析に基づく「サポート活動」として扱われていた点にあります。再編前は、取引処理業務からの収益の100%がインドの事業に帰属し、純利益率50%が適用されていました。その結果、再編前は売上の50%が課税対象となっていましたが、再編後はこれが約2.5%まで大幅に減少しています

以下に、再編前後の事業運営の実態を示す重要な事実をまとめました。

2014年12月1日以前:

  • マスターカード・インターナショナル・インコーポレーテッド(以下「MCI」)は、海外グループの一員として、インドにおいてリエゾンオフィス(LO)を通じて事業を展開していました。このリエゾンオフィスは、マスターカード・インターフェース・プロセッサー(MIP)を所有していました。MIPは主に銀行や金融機関といった顧客の敷地内に設置され、マスターカードのネットワークおよび処理センターと接続していました。
  • MCIは、インドの顧客と直接マスターライセンス契約(MLA)を締結していました。
  • 2014年12月1日までの10会計年度にわたり、このリエゾンオフィスはインドにおける恒久的施設(PE)を認めており、取引処理サービスによる収益はインドで100%帰属し、グローバルの純利益率(50%)が適用されていました。

2014年12月1日以降:

  • LO(リエゾンオフィス)は閉鎖され、従業員と業務はインド子会社へ移管

  • MIPは顧客先に設置され、従来通りの機能を維持

  • MIPの所有・維持管理はインド子会社が担当

  • 申請者は顧客とMLA(マスターライセンス契約)を締結しサービス提供

  • 申請者とインド子会社はサービス契約を結び、各種サポート業務を実施

  • インド子会社は申請者からサービス料を受領

  • 申請者は顧客に対しトランザクション処理料、評価料、付随サービス料を請求(インド国外でサービス提供)

  • MCIおよび申請者は収入計上せず、インド子会社がサポートサービスのみ実施

上述の事実に鑑み、AARは申請者が類似の体制の下で同一の機能を遂行していることを指摘しました。2014年12月1日以前にMCIがインドにおいてPE(恒久的施設)を形成し、トランザクション処理サービスからの収益が全額帰属されていた同じ活動が、2014年12月1日以降は機能プロファイル上では単なる支援業務として扱われていることが明らかになりました。

AARは、2014年12月1日以前にMCIがインドで行っていたトランザクション処理サービスに関する機能およびリスクが、現在もインド子会社によって引き続き遂行されていると認定しました。したがって、インド子会社は申請者のインドにおけるPEを形成していると判断され、インド子会社の施設、サービス、従業員、拠点が申請者の業務遂行のために利用されている範囲で、これが申請者のPEに該当するとされました。また、インド子会社が実施しているトランザクション処理サービスが、インド子会社の機能プロファイルに反映されていなかったことも指摘されています。

インド企業にとっての今後の展望

本判決は、機能分析の観点から非常に重要な実務的意義を持っています。これは、多国籍企業が複数の税管轄区域で採用してきた法的形式主義から、インドの税務当局が明確に逸脱したことを示しています。インドの税務当局は、「インド子会社の機能プロファイルを税務上の立場を支えるために調整する」という、これまでの税逃れの手法が通用しなくなるという強いメッセージを発しました。納税者は、移転価格文書において、インドで行われる機能とそれに伴うリスクが正確に反映されていることを細心の注意を払う必要があります。適切な機能プロファイルの未報告や、インドの移転価格の視点から重要な機能を「サポートサービス」として偽装することは、AAR判決が示すように厳しい結果を招きかねません。

また、本判決は、再編後のシナリオにおいて、しっかりとした機能分析と移転価格文書の重要性を浮き彫りにしています。したがって、グローバルまたはインドレベルでの事業再編を計画する多国籍企業は、再編前後のインド拠点の機能プロファイルの変化に十分注意する必要があります。また、最近事業再編を完了した、あるいは現在進行中の企業は、再編後の機能プロファイルを見直し、機能プロファイルの変化があれば、それを裏付ける資料と分析を確実に整備しておくべきです。

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