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海外グループ会社への立替費用償還:課税対象となるのか?

国際的な国境の開放に伴い、世界中で経済グループが急速に拡大し、国内外にさまざまな法人形態の企業が設立されるようになりました。これにより、グループ企業間での「イントラグループ契約(社内グループ契約)」が広く締結されるようになり、グループ全体で業務を一元的に支援する仕組みが整備され、結果として業務効率やコスト効率の向上につながっています。

このような契約は、各社で「コストシェアリング契約」や「グループサービスチャージ契約」などと呼ばれることがありますが、本質的にはいずれも同じ目的を持っています。すなわち、グループ各社に対して、管理部門業務(例:総務、IT、人事、ブランディング等)といった非中核業務を中央集約的に提供するための枠組みです。

また、多くの場合、持株会社の主な機能のひとつは、グループ全体への中央集約型の管理サービスを提供することにあります。

なお、これらのイントラグループ契約と、実際に商取引が行われる別の種類のグループ契約とは明確に区別する必要があります。両者を混同してしまうと、税務上まったく異なる取り扱いを受ける可能性があるため、注意が必要です。

このようなグループ間の取り決めが、業務プロセスの標準化に加え、コストや業務の効率化に大きく貢献していることは間違いありません。しかし一方で、これらの契約に基づいて行われる支払いが税務上どのように扱われるべきかという点については、納税者と税務当局の間でたびたび争点となっています。

多くの企業グループが業務の効率化や標準化を目的にこうした取り決めを活用している一方で、一部の企業グループでは(ローン取引など他の取引形態も含めて)インドから資金を本国に戻すためのスキームとして利用されているケースも見受けられます。このため、納税者と税務当局の双方にとって、こうしたイントラグループ契約を税務の視点から正しく理解することは非常に重要です。

また、これらは関係者間(関連当事者間)での取引にあたるため、移転価格税制の観点も避けては通れません。

最近では、デリーの所得税控訴審判所(ITAT)の判断が注目されました。事案は、インド国内で「ハイアット・リージェンシー」の名称でホテルを運営していたインド法人(アジアン・ホテルズ・ノース社)と、ハイアット・インターナショナル・アジア・パシフィック・リミテッド(以下「ハイアット」)の関連会社との間で行われた中央サービスの提供に関するものです(ITO(国際課税)対アジアン・ホテルズ・ノース社、ITA No. 210/Del/2016)。

同法人は、ハイアットとの間でフランチャイズ契約を締結し、ハイアットの他の関係会社から提供されるさまざまなサービスを受けていました。その中の一社である HCSL は、インド国外からグローバルに展開するハイアット・グループのホテルに対して一元的なマーケティング・販売支援サービスを提供していました。HCSLは、ハイアット系列の各ホテルの代わりに営業・販売活動を行い、世界的な予約システムの管理、広告・広報活動、マーケティング調査や標準化に向けた施策、サービス改善に向けたリサーチなど、ゲストへのサービス向上と各グループホテルの共通利益の促進を目的とした幅広い支援を実施していました。

これらのサービスにかかる費用は、HCSLが実費ベースで負担額を世界中のハイアットホテルに配賦しており、利益は一切加味されていませんでした。

しかしながら、課税当局(Assessing Officer)は、上記契約に基づく支払いについて、インド国内法の規定に従い「ロイヤルティ」とみなしたうえで、これを単なる「実費精算(リインバースメント)」とは認めませんでした。その理由として、HCSLが負担した費用と納税者が支払った対価との間に、一対一の明確な対応関係がない点を指摘しました。

この判断に対して納税者が控訴したところ、所得税控訴官(CIT[A])は納税者の主張を認め、支払いは「ハイアット」というグローバルブランドを構築・強化する目的で行われたものであり、そもそも課税当局自身が「HCSLが提供したサービスと納税者の支払額との間に明確な対応関係はない」と認めていたことを理由に、ロイヤルティとはみなされないと判断しました。さらに、この支払いはあくまでも実費の範囲内であり、利益を含まないことから、インドで課税対象とすることはできないと結論づけました。

その後、税務当局が上訴しましたが、ITAT(所得税控訴審判所)はCIT(A)の判断を支持し、「マーケティングサービスへの支払いは実費ベースで行われており、当該サービスが納税者のためだけに提供されたという証拠は存在しない」として、これらの支払いについてはインド国内での課税対象にはならないと判断しました。

また、注目すべき判例として、デリー高等裁判所が「CIT対Expeditors International (India) (P.) Ltd.」の件で、グローバルマネジメントにかかる費用のリインバースメント(実費精算)はインド国内で課税対象とならないと判断した事例があります。

一方で、事案の特有の事実関係に基づき、海外グループ会社がインド法人に提供したサービスについて「技術サービス料(Fees for Technical Services)」とみなされ、1961年インド所得税法および該当する二重課税防止条約のもとで課税対象となった事例も存在します。

これらの判決を踏まえると、海外関連会社による費用の「コスト・トゥ・コスト」ベースのリインバースメントは原則として課税対象外と考えられます。ただし、この原則を一律のルールとして適用することはできず、各案件ごとの事実関係を精緻に分析する必要があります。

例えば、税務当局の視点からは、納税者が本来課税されるべき支払いを回避する目的で、海外グループ会社を経由して第三者への支払いをリインバースメントとして装っているのではないか、という指摘を受ける可能性があります。実際に、海外グループ会社が最終的に第三者に支払いを行うために送金された金額が、単なる実費精算ではなく第三者への直接支払いと解釈されることもあり得ます。このような判断は、ムンバイ税務審判所の判例でも認められています。

インドの納税者側の視点としては、こうしたリインバースメントを損金算入する際には、実際に提供されたサービスが事業の遂行に資するものであることが条件となります。また、サービスの受領事実やその有用性・必要性を裏付けるための、しっかりとしたドキュメント管理が求められます。

以上の内容から、インドにおけるリインバースメントの課税可否を判断する明確な固定原則は存在しないと言えます。重要なのは、関係当事者の意図と、その意図や支出の性質を裏付ける適切な書類の有無です。これらが課税判断の鍵となります。

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